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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)13572号 判決

原告

岡田省三

被告

村上裕子

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金六三五万三一四七円及びこれに対する平成八年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金一八七〇万五三四六円及びこれに対する平成八年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成八年一二月一日午後一二時五七分ころ

(二) 場所 大阪府堺市向陵東町二丁六番二〇号先の交差点内路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(大阪七九ね八八二七)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告村上裕子(以下「被告裕子」という。)

右所有者 被告村上あづさ(以下「被告あづさ」という。)

(四) 被害車 普通貨物自動車(和泉四〇や四五七四)(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

(五) 事故態様 原告が、原告車両を運転し交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)を時速五キロメートルから一〇キロメートルで東から西に向けて直進しようとした際、前方不注視のまま同交差点を北から南に向けて時速約四〇キロメートルで進行してきた被告車両が、一時停止の標識の手前で一時停止することなく、原告車両に衝突した。

2  責任原因

(一) 被告裕子の責任

被告裕子は、本件事故当時、被告あづさから被告車両を借用し、これを自己のために運行の用に供していた者であり、かつ、本件事故は、その一時停止義務違反及び前方不注視により生じたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

(二) 被告あづさの責任

被告あづさは、本件事故当時、被告車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

3  損害

(一) 原告の受傷、治療経過、後遺障害

(1) 原告は、本件事故の際、原告車両を被告車両に衝突され、更に、園田有希生所有の駐車車両に衝突した衝撃により、頭部外傷、外傷性頸部症候群、右腰部、右下腿部打撲症を負い、次のとおり入通院を余儀なくされた。

〈1〉 入院(入院日数合計一五六日)

平成記念病院

平成八年一二月九日から同九年一月一一日まで入院(三四日)

平成九年一月三〇日から同年五月三一日まで入院(一二二日)

〈2〉 通院(実通院日数合計一四〇日)

イ 清恵会病院

平成八年一二月一月から同月二日まで通院(実通院日数二日)

ロ 岡本外科

平成八年一二月三日から同月六日まで通院(実通院日数三日)

平成九年一月一三日から同年一月二八日まで通院(実通院日数一一日)

平成九年六月二日から平成一〇年一月八日まで通院(実通院日数一一三日)

ハ 平成記念病院

平成九年一月一二日から同年一月三〇日まで通院(実通院日数二日)

平成九年六月一日から平成一〇年一月八日まで通院(実通院日数九日)

(2) 本件傷害は、右の治療にも関わらず治癒に至らず、原告は、平成一〇年一月八日、症状固定と診断され、後遺症として、下後頭神経圧痛、頸椎後屈制限及び自発痛、右上肢挙上時放散痛及び挙上困難、肘関節屈曲筋力低下、右上肢知覚鈍麻、握力右低下、右下肢知覚鈍麻及び放散痛、筋力低下、ラセーグ徴候などの頑固な神経症状が残った。右後遺障害は、自賠法施行令二条別表の一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)に該当する。

(二) 具体的損害額

右(一)の受傷等により原告が被った損害は、少なくとも左記の通り合計金二〇六五万五三四六円となる。

(1) 治療費 金五九六万五二六五円

平成記念病院 金五一七万八〇〇二円

岡本外科 金七四万〇二〇一円

清恵会病院費 金四万七〇六二円

(2) 入通院交通費 金一二万四七〇〇円

医院

往復交通費

入通院回数

金額

清恵会病院

金六〇〇円

二回

一二〇〇円

岡本外科

金七四〇円

一二七回

九万三九八〇円

平成記念病院

金二四六〇円

一二回

二万九五二〇円

(3) 入院雑費 金二三万四〇〇〇円

入院雑費として、一日あたり一五〇〇円として、その一五六日分である二三万四〇〇〇円を要した。

(4) 装具代 金九九七六円

(5) 休業損害 金七二四万三五五二円

〈1〉 原告は、本件事故により負った傷害の治療のために、平成九年一月二九日から同年八月七日までの約六ヶ月間、同人が経営していた喫茶店「マック」(以下「原告喫茶店」という)を休業した。

また、原告は、原告喫茶店を開業していた平成八年一二月一日から同九年一月二八日まで及び同年八月八日から同一〇年一月八日までの各期間の合計約七ヶ月間については、十分な業務に就くことができず、八〇パーセントの減収があった。

よって、原告が本件事故により被った休業損害(固定費を除く)は、左記の通りである。

平成八年度の原告の年収 金五九九万三八二八円

原告の一ヶ月当たりの平均収入 金四九万九四八六円

閉店中の減収

四九万九四八六円×六=二九九万六九一六円

入通院期間の減収(閉店中を除く期間)

四九万九四八六円×七×〇・八=二七九万七一二二円

〈2〉 原告が、喫茶店閉店中に支出を余儀なくされた固定費は、別表記載のとおり、金一四四万九五一四円である。

(6) 後遺障害による逸失利益 金一三〇万七八五三円

原告は、本件後遺障害(一四級一〇号)により、労働能力の五パーセントを失った。その喪失期間は、五年と見るべきである(新ホフマン係数は四・三六四である)。原告の平成八年の年収は、金五九九万三八二八円であるから、後遺障害による逸失利益は次のとおりである。

五九九万三八二八円×〇・〇五×四・三六四=一三〇万七八五三円

(7) 入通院慰謝料 金三〇〇万円

原告は、本件事故により負った傷害の治療のために、平成八年一二月九日から同九年一月一一日までの間及び同月三〇日から同年五月三一日までの合計一五六日間(約五・二ヶ月)の間入院し、平成八年一二月一日から同一〇年一月八日までの間(ただし、右入院期間を除く)の合計二四八日(約八・二ヶ月)の間通院をした(実通院日数一四〇日)。

(8) 後遺障害慰謝料 金一一〇万円

原告が(一)(2)の後遺障害を負ったことに対する慰謝料は、一一〇万円を下らない。

(9) 弁護士費用 金一六七万円

原告は、本件損害賠償請求を行うために弁護士に本件訴訟提起を委任し、その費用及び報酬として金一六七万円を支払うことを約したところ、右金員は、前記不法行為と因果関係のある損害にあたる。

(10) 残損害額

右(1)ないし(9)の損害合計額金二〇六五万五三四六円から後記損害の填補合計額金一九五万円を控除すると、残損害額は金一八七〇万五三四六円となる。

4  よって、原告は、被告裕子に対し不法行為及び自賠法三条に基づき、村上あづさに対し自賠法三条に基づき、連帯して金一八七〇万五三四六円及びこれに対する平成八年一二月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因一1について、交通事故の発生そのものは認めるが、原告及び被告裕子の速度や事故態様は争う。

2  請求原因一2は争う。

3  請求原因一3(一)(1)のうち、傷害の内容は争い、原告の入通院については、原告主張の期間の入通院があったとの診断書の存在は認めるが、右入通院の実態は不知。一五六日にも及ぶ長期入院の必要性はなく、通院治療で十分であった。

4  請求原因一3(一)(2)は否認する。症状固定の日は、遅くとも本件事故発生日から六ヶ月以内である。

5  請求原因一3(二)は、否認ないし争う。

三  抗弁

1  過失相殺

原告は、本件交差点に進入するにあたり、前方、右方の注視と安全確認義務を怠った過失があるので、これを損害額の算定に当たり、十分斟酌すべきである。

2  素因減額

原告には、腰椎手術歴があり、本件受傷前から頸椎加齢変化、頭痛を有していたのであるから、治療の長期化には、原告の右素因及び心因性の要素が関与しており、応分の素因減額相殺が認められるべきである。

3  損害の填補

原告は、被告ら((4)については自賠責保険)から、本件事故による損害の填補として、次のとおり合計金一九五万円の支払いを受けた。

(1) 治療費 金五二万七七八四円

平成記念病院 〇円

岡本外科 金四八万〇七二二円

清恵会病院 金四万七〇六二円

(2) 装具代 金九九七六円

(3) 休業損害内払 金三七万二〇〇〇円

(4) 自賠責保険からの支払

傷害分 金二九万〇二四〇円

後遺障害分 金七五万〇〇〇〇円

四  抗弁に対する認否

抗弁1、2は否認し、3は認める。

理由

一  請求原因1(事故の発生)、2(責任原因)、抗弁1(過失相殺)について

1  請求原因1(事故の発生)のうち、(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いはない。

2  前記争いのない事実、証拠(甲一、二、一二、一九1ないし12、三〇、乙二ないし五、原告本人、被告裕子本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場となった本件交差点は、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とがほぼ垂直に交わる信号機による交通整理の行われていない交差点である。南北道路及び東西道路の幅員はほぼ等しいが、南北道路の北詰・南詰には一旦停止の道路標識が設置されている。南北道路の本件交差点北側部分、東西道路の本件交差点東側部分相互間の見通しは悪い。東西道路を東から西に向けて進行してきた場合、本件交差点の中央近くまで進まないと南北道路を見通すことができない。

原告は、平成八年一二月一日午後一二時五七分頃、東西道路を東から西に向けて走行し、本件交差点にさしかかり、その手前から時速約五キロメートルないし一〇キロメートルに減速して本件交差点の中央付近まで進入し、そこで右方の安全を確認したところ、被告車両が原告車両の間近に迫っているのを発見した。他方、被告裕子は、被告車両を運転して南北道路を北から南に向かって時速二五キロメートルから三五キロメートルで走行中、本件交差点にさしかかったが、妹の家を探しながら走行していたことに加え、左方の見通しが悪かったことから、本件交差点の東側に道路があることに気づかず、また一旦停止の道路標識も見落として減速しないまま時速二五キロメートルから三五キロメートルの速度で本件交差点に進入した。被告車両は、原告車両が本件交差点の中央を過ぎたあたりでその右側面に衝突した。原告車両は、その衝撃で時計回りにほぼ半回転し、本件交差点の南西に位置する駐車場に停車中の訴外園田有希生所有の普通乗用自動車に衝突して停車した。被告裕子は、原告車両と衝突した時、初めて原告車両の存在に気がついた。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない

3  右認定事実によれば、本件事故は、被告裕子が、前方に対する注意を怠って東西道路(本件交差点の東側部分)に気づかず、一旦停止の道路標識をも見落として減速措置を採らないまま本件交差点内に進入した過失により起きたものであると認められる。右のとおり、被告裕子の前方不注視の程度は甚だしく、これと対比した場合に過失相殺しなければ公平を失するような事情は認められない。

4  被告あづさが、本件事故当時、被告車両を保有していたことは、当事者間に争いがないから、被告あづさは、被告車両を自己のために運行の用に供していたものと認められる。

5  以上のとおりであるから、被告裕子は、民法七〇九条に基づき、被告あづさは、自賠法三条に基づき、原告に生じた人的損害を賠償する責任がある。

三  損害額について

1  原告の受傷、治療経過、後遺障害について

証拠(甲三、四、五の1ないし16、六ないし八、一五ないし一八)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)の事実を認めることができる。

右認定事実によれば、原告の症状は平成一〇年一月八日に固定したと認めるのが相当である。被告らは、受傷後六か月を経過した平成九年五月三一日には、原告の症状は固定していたと主張する。確かに、甲第一五号証によれば、同日平成記念病院を退院した後、原告の治療は、投薬、神経ブロック、理学療法に終始し、原告の症状が著明に改善することはなく、その後新たな治療も施行されていないことが認められる。しかし、治療中にそれ以降症状の改善がみられないかどうかを確実に予測できるわけではなく、担当医師としては、対症療法等を行いながらその間に自然治癒力の発揮等を期待したものと考えられるのであって、治療相当期間を画する症状固定時期の判断にあたっては、できるだけ実際に診察した担当医師の判断を尊重すべきである。したがって、被告らの右主張を採用することはできない(もつとも、休業損害及び入通院慰謝料の局面では、後記のとおり、治療期間中に実質的に症状固定に近い状態になっていたことを考慮して損害額を算定する。)。

2  具体的損害額について

(一)  治療費 金四一三万三八〇四円

証拠(甲五の一ないし一四、六、七、九、一一、一三)によれば、原告が治療費として清恵会病院、岡本外科、平成記念病院から請求された金額の合計は、金五九六万五二六五円と認められる。

この点、被告は、原告の治療は、通院治療で十分であったし、仮に安静目的の入院を許容するとしても、入院期間は二週間で十分であった旨主張する。

しかし、証拠(甲一五、一七、乙七、九、一五、原告本人)によれば、本件事故直後から平成八年一二月八日まで通院治療するも症状が改善しなかったので、同月九日から入院したこと、一旦症状が改善したため、平成九年一月一一日に退院し、その後同月二八日までほぼ毎日通院治療していたが、症状が再発したことから、同月三〇日から再び入院したこと、二度目の入院中、原告の症状がなかなか改善せず、精神的不安も大きかったことから、各種検査や投薬治療の他、原告を安静にさせると同時に精神的不安を除去するための処置がなされ、その結果原告の症状は徐々に改善し、平成九年五月三一日に退院するに至ったことが認められ、右事実からすると、入院措置自体は担当医師の裁量の範囲内にあるものであって、一五六日という入院期間も相当な範囲のものと認めることができる(入院中の治療・検査内容及び原告の外泊状況からすると、必ずしも入院を必須とするものではなく、通院治療という別の選択肢もあったと認められるが、右の事情は入通院慰謝料算定の局面で考慮する。)。

ただし、平成記念病院の請求分のうち、個室使用料金一七八万〇九〇〇円(一日あたり一万一〇〇〇円として一五六日分。消費税込み。)は本件事故と相当因果関係は認められず、電話料金五万〇五六一円は、後述(三)の入院雑費でその相当額を考慮済みであるから、治療費は、右請求金額から個室使用料及び電話代を控除した金四一三万三八〇四円をもって相当とする。

(二)  入通院交通費 金一二万四七〇〇円

入院及び通院のための交通費としては、原告主張の通り金一二万四七〇〇円を相当と認める。

(三)  入院雑費 金一四万〇四〇〇円

入院雑費は、外泊状況を考慮し、入院期間を通じて一日あたり九〇〇円とすべきであるから、本件では、一五六日分として金一四万〇四〇〇円をもって相当と認める。

(四)  装具代 金九九七六円

原告は装具代として金九九七六円を要したものと認める。

(五)  休業損害 金四七二万三六五九円

(1) 固定費以外の損害について

証拠(甲一〇、原告本人)によれば、〈1〉原告は、本件事故当時の平成八年度に五九九万三八二八円の年収を得ていたこと、〈2〉原告の具体的な労働内容は、事務作業にとどまらず、喫茶店内の立ち仕事が主であったこと、〈3〉原告は、一回目の入院時には原告喫茶店を休業しなかったが、二回目の入院をきっかけとして平成九年一月二九日から同年八月七日まで一九一日間、原告喫茶店を休業したことが認められるが、前記三1で認定した原告の傷害の程度、治療経過及び前記三2(一)で認定した原告の入通院状況にかんがみると、受傷日である平成八年一二月一日から症状固定日である同一〇年一月八日までの期間のうち、入院期間である合計一五六日間については完全に休業を要し、平成八年一二月一日から同月八日までの八日間及び平成九年一月一二日から同月二九日までの一八日間の合計二六日間については平均して五〇パーセント労働能力が低下した状態であり、同年六月一日から平成一〇年一月八日(症状固定日)までの二二二日間については平均して二〇パーセント労働能力が低下した状態であったと認められる。

したがって、固定費を除く休業損害は三五〇万四三三六円(一円未満切り捨て)となる。

(計算式) 5,993,828×{(156÷365)+(26×0.5)÷365+(222×0.2)÷365}=3,504,336

(2) 固定費について

証拠(甲一四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告がその請求にかかる固定費を支出した事実は認められるが、そのうち、携帯電話料金については、原告喫茶店の営業の維持・存続のために必要やむを得ないものとは認められず、また完全に休業を要する期間は五・二ヶ月とみるのが相当であるから、固定費として認容すべきは、左記のとおりであり、合計金一二一万九三二三円(一円未満切り捨て)となる。

〈1〉 店舗家賃 金四八万八八〇〇円

駐車場 金四七万八四〇〇円

合計 金九六万七二〇〇円

〈2〉 光熱費のうち、携帯電話料金を除いた額 金六万六三七二円

〈3〉 西日本KSD会費

一五〇〇円(月額)×五・二=金七八〇〇円

〈4〉 自動車保険料

一一万四二六〇円(年額)×五・二÷一二=金四万九五一二円

〈5〉 火災保険料

四万三四〇〇円(年額)×五・二÷一二=金一万八八〇六円

〈6〉 自動車税

八万八五〇〇円(年額)×五・二÷一二=金三万八三五〇円

〈7〉 個人事業税

一六万四五〇〇円(年額)×五・二÷一二=金七万一二八三円

(3) 休業損害合計 金四七二万三六五九円

(六)  後遺障害による逸失利益 金八一万八四五七円

原告は本件事故により、一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)の後遺障害を残したところ、このため症状固定後三年間にわたり労働能力を五パーセント喪失したと認めるのが相当である。そして、原告の本件事故当時の年収は五九九万三八二八円であったから、新ホフマン方式により中間利息を控除すると、後遺障害逸失利益は、金八一万八四五七円(一円未満切り捨て)となる。

(計算式) 5,993,828×0.05×2.7310=818,457

(七)  入通院慰謝料(傷害慰謝料) 金一〇〇万円

原告の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、入通院慰謝料は一〇〇万円が相当である。

(八)  後遺障害慰謝料 金九〇万円

原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表の一四級一〇号に該当するところ、原告の後遺障害の内容・程度にかんがみると、後遺障害慰謝料は九〇万円とするのが相当である。

(九)  以上によれば、原告の損害は、合計金一一八五万〇九九六円となる。

3  素因減額

(一)  被告らは、原告の症状の発現及び継続には、原告の腰椎手術歴、頸椎加齢変化及び心因性の要素が寄与したものであるとして、いわゆる素因減額を主張する。

証拠(甲一七、乙七ないし九)によれば、原告は、本件事故の二〇年前に腰椎分離症で骨移植の手術をしたこと、そのため本件事故当時も無理すると腰痛が出現する状態であったこと、平成七年二月一三日から平成八年四月二日まで脳血管障害、起立性低血圧、頸肩腕症候群による後頭部痛、眼球痛、めまい発作、両手のしびれ感のため通院治療しており、本件事故後も脳外科の薬を服用していたこと、本件事故後の入院中も同様に頭痛を訴えており、この頭痛に対する治療もなされていたことが認められる。したがって、本件事故後、原告の神経症状の発現及び継続については、本件事故による外傷性頸部症候群等のほか、本件事故前にり患した腰椎分離症、脳血管障害、起立性低血圧、頸肩腕症候群もその原因となっていたと認められる。

また、証拠(乙八、九)及び弁論の全趣旨によれば、原告にはもともと神経質なところがあり、医師や看護婦もそのような印象を受けていること、治療期間中も抗不安定剤が投与される程に病状に対して神経質になっていたこと、加害者や加害者側の保険会社の態度に対して不満を持っていたこと等の心理的な要因が治療の長期化に寄与していたことが認められる。

そうすると、被告らに本件損害の全部を賠償させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するから、民法七二二条二項の規定を類推適用し、以上の諸事情を考慮し、全損害額の三五パーセントを減額するのが相当である。

これに対し、頸椎加齢変化が年齢不相当のものであることを認めるに足りる証拠はないから、これらを損害賠償の額を定めるにつき斟酌することは相当ではない。

(五) 原告の損害の合計額金一一八五万〇九九六円に対し、右の次第で三五パーセントの素因減額を行うと、損害額は金七七〇万三一四七円(一円未満切捨て)となる。

4  損害の填補

原告が、被告ら及び自賠責保険から、本件事故による損害の填補として合計金一九五万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがなく、これを素因減額後の損害額金七七〇万三一四七円から控除すると、残損害額は金五七五万三一四七円となる。

5  弁護士費用

原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは、当裁判所に顕著な事実であるところ、右認容額、本件事案の内容、本件の審理経過等一切の事情を考慮すると、被告らが負担すべき弁護士費用は、金六〇万円が相当である

四  結論

以上によれば、原告の請求は主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法六一条、六四条本文、六五条一項但書を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

別表

固定費明細

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